EAを入れたのに「なぜか勝てない」「バックテストでは良かったのに実運用で崩れる」──この原因は、ロジックの良し悪しよりも 検証と運用の“前提”がズレているケースがほとんどです。
実際、EAが勝てないパターンはある程度決まっていて、データ品質・最適化(過学習)・相場の地合い変化・DD(損失)の質・約定環境・設定ミスなど、いくつかの落とし穴を踏むだけで期待値は簡単に消えます。
この記事では、EAで勝てない原因を 7つに整理し、検証で潰すべきポイントを チェックリスト形式でまとめました。
「負けるEAを避けたい」「検証の精度を上げたい」「MT4/MT5で運用前に不安を消したい」という方は、まずここから確認してください。
「EAが勝てない」の正体は“ロジック”より“検証の穴”が多い
EAを使っているのに勝てない場合、原因は「手法が悪い」だけとは限りません。むしろ多いのは、バックテストや運用条件の前提がズレていて、本来の期待値が検証段階で“盛られてしまっている”ケースです。
たとえば、スプレッド・手数料・データ品質・最適化(過学習)・相場の地合い変化・約定環境・設定ミス――このあたりを見落とすだけで、バックテストの成績は簡単に良く見えます。逆に言えば、ここを順番に潰していけば「勝てない理由」はかなりの確率で特定できます。
この記事でわかること
- EAで勝てない原因を7つに分解して、どこで失敗しているか切り分ける方法
- 検証で潰すべき“落とし穴”と、最低限のチェック項目(保存版チェックリスト)
- MT4/MT5でありがちな運用ミス(設定・ロット・環境)を事前に防ぐポイント
先に結論:勝てないEAは「負ける設計」か「見誤り」のどちらか
EAが勝てない理由は大きく2つです。
- 負ける設計:相場のどこかで必ず破綻する(DDの質が悪い、得意相場が狭すぎる等)
- 見誤り:検証や運用の前提が間違っていて、勝てるはずのものまで崩している(データ/約定/設定ミス等)
この記事は後者の「見誤り」を徹底的に減らしつつ、前者の「負ける設計」も早めに見抜けるようにするのが目的です。

EAで勝てない理由① バックテストの前提(データ・環境)が間違っている
EA検証でまず最初に疑うべきは、ロジックではなくバックテストの前提です。ここがズレていると、どれだけ検証しても「良いEAを選んだつもりが、実運用で勝てない」という結果になります。
特にMT4/MT5のバックテストは、設定次第で成績が良くも悪くも見えてしまうのが特徴です。だからこそ、検証の初手は「結果」ではなく前提条件が現実に近いかを確認することが重要です。
モデリング品質・ヒストリカル不足で結果が盛れる
バックテストは、使っている過去データ(ヒストリカルデータ)の質と量で精度が大きく変わります。データが不足していたり、時間足ごとのデータ整合が取れていない状態だと、以下のような“盛れた結果”になりやすいです。
- 取引回数が不自然に少ない/多い(本来の再現性が崩れている)
- スプレッドが実態より狭い想定になり、勝ちトレードが増える
- 本来入るはずの損切りが入らず、DDが浅く見える
特に注意したいのは、バックテスト結果が良いのに取引回数が少なすぎる場合です。データ不足や条件の偏りで、たまたま“当たり期間”だけを切り取っている可能性があります。
データ確認の考え方はシンプルで、「その期間・その時間足で、本当に十分な本数のバーがあるか」をまず疑います。TOKYO-EAでは、過去データをCSVに出して本数や値幅の偏りを確認する方法も紹介しているので、気になる方は内部リンクで合わせて確認すると精度が上がります。
スプレッド・スリッページ・手数料が現実と違う
バックテストでありがちな落とし穴が、コスト条件の軽視です。実運用では以下が必ず発生します。
- スプレッド:時間帯や相場急変で拡大する
- スリッページ:指値・成行ともに滑る(特に指標時)
- 手数料:RAW口座などでは往復コストが効く
たとえばスキャルピング系や、利確幅が小さいEAほど、わずかなコスト差で期待値が消えます。バックテストの成績が「実運用より良すぎる」と感じる時は、ほぼ例外なくこのコスト条件が原因のどれかです。
ここはTOKYO-EAの強みであるスプレッド実測記事とも相性が良く、同じEAでもブローカーや口座タイプで有利不利が出ることを、検証の段階から織り込めます。
潰し方:まずは「検証環境チェック」を通してから、EAの良し悪しを見る
理由①を潰すための手順は、次の3つだけでOKです。
- データが揃っているか(期間・時間足・本数の不足がないか)
- コスト条件が現実的か(スプレッド・手数料・滑りを軽視していないか)
- 結果の妥当性を疑う(取引回数が少ない/DDが浅すぎる等の違和感がないか)
ここを飛ばして「PFが良いから採用」「勝率が高いから優秀」と判断すると、検証の時点でズレた結論を掴みます。次の理由②では、この“ズレ”がさらに強化される最適化(過学習)の落とし穴を解説します。
EAで勝てない理由② 最適化(最強パラメータ探し)が過学習になっている
バックテストの前提(データ・コスト)を整えても、それだけでは安心できません。次に多いのが、いわゆる過学習(カーブフィッティング)です。
過学習とは、ひとことで言うと「過去の一部の相場にだけ、都合よく合わせた設定」のこと。バックテスト上は完璧に見えても、少し地合いが変わっただけで機能しなくなり、実運用で勝てない原因になります。
“勝てた期間”に合わせただけで、未来に弱い
最適化をかけると、PFや利益がグッと伸びることがあります。しかしその伸びが、
- 特定の年だけ異常に強い
- ある局面(トレンド期など)でのみ爆発的に勝つ
- 条件を少し変えると急に崩れる
このような形なら、過学習の可能性が高いです。特に「勝ち方」が偏っているEAは、次の相場で同じ形が再現されなかった瞬間に失速します。
ここで大事なのは、“最強設定”を探すこと自体が悪いのではなく、検証手順が不足しているという点です。最適化は「候補を絞るための作業」に留め、最後は別条件で耐久テストをしないと採用判断は危険になります。
パラメータが多いEAほど危険(自由度=過学習)
過学習は、EAのパラメータ数が増えるほど起きやすくなります。理由はシンプルで、調整できるツマミが多いほど、過去に合わせた“都合のいい形”を作りやすいからです。
とくに注意したい典型パターンは次の通りです。
- フィルター過多:時間帯・曜日・指標回避・複数インジ条件が多い
- 利確/損切りが細かすぎる:TP/SL/トレール/建値移動が複雑
- 最適化の範囲が広すぎる:期間も通貨も時間足も全部まとめて“総当たり”
こういうEAが「バックテストだけ異常に強い」場合、過学習を疑うのが自然です。逆に、シンプルなEAでも過学習は起きますが、検証で崩れやすさを発見しやすいぶん、リスクは下がります。
潰し方:期間分割(インサンプル/アウトサンプル)で落とす
過学習を潰す最も現実的な方法は、期間を分けて検証することです。考え方は次のように整理できます。
- インサンプル(学習期間):最適化や調整をして良い期間
- アウトサンプル(検証期間):調整せずに耐えられるかを見る期間
アウトサンプルで成績が崩れるEAは、インサンプルで“当てにいった”可能性が高く、採用候補から外すのが安全です。
さらに精度を上げるなら、次の視点も加えると強いです。
- パラメータの近傍が安定しているか(少しズラしても極端に崩れない)
- 複数期間で似た成績か(特定の年だけ強い、を避ける)
- 取引回数が十分か(回数が少ないと“たまたま”が増える)
次の理由③では、最適化よりさらに避けづらい相場のレジーム変化(地合いの変化)によって、EAの優位性が消えるパターンを解説します。
EAで勝てない理由③ 相場の地合いが変わると優位性が消える(レジーム変化)
過学習を避けて検証しても、それでもなおEAが勝てなくなる原因があります。それがレジーム変化(相場の地合い変化)です。
相場には「トレンドが出やすい時期」「レンジが続く時期」「急変動が多い時期」などの波があり、同じ通貨ペアでも局面が変われば動き方が変わります。EAは万能ではなく、多くの場合得意な相場を前提に優位性が成り立っています。
つまり、バックテストで勝っていたEAが勝てなくなったとき、単に“調子が悪い”のではなく、相場がEAの得意な局面から外れただけということが普通に起こります。
トレンド相場専用/レンジ専用のEAは“得意不得意”が極端
EAの多くは、得意不得意がはっきりしています。たとえば、
- トレンド系:押し目買い・戻り売りに乗る。レンジに弱い(往復ビンタになりやすい)
- 逆張り系:レンジで強い。強トレンドに弱い(損切りが連続しやすい)
- ブレイクアウト系:レンジの収束→拡散で強い。ダマシが多い局面に弱い
この「得意相場」を理解せずに、単純にPFや勝率だけで採用すると、地合いが変わった瞬間に勝てなくなります。ここで重要なのは、EAの良し悪しではなく、そのEAが今の相場環境と噛み合っているかです。
特に、勝率が高い逆張りEAや、利益が伸びやすいブレイクアウトEAは、局面が合っている時の成績が派手になりやすい反面、合わなくなると崩れ方も急です。
指標・急変・金利局面でパフォーマンスが崩れる
レジーム変化が起きやすい代表例は、次のようなタイミングです。
- 重要指標(雇用統計・CPIなど)でボラが跳ねる
- 要人発言や突発ニュースで急変動が起きる
- 金利局面が変わり、トレンドの出方や戻りの深さが変化する
- 市場時間(アジア/欧州/米国、アジア市場前)で値動きが変わる
こうした局面では、普段は機能していたフィルターや決済ルールが噛み合わず、急にDDが増えることがあります。特にスキャルピングや短期売買ほど影響が大きく、約定条件の悪化(スプレッド拡大・滑り)とセットで崩れることが多いです。
潰し方:相場タイプ別の検証(トレンド期/レンジ期/ショック期)
レジーム変化の弱点を潰すには、バックテストを「1本の長期期間」で終わらせず、相場タイプ別に分解して検証します。
おすすめの切り分け方は次の通りです。
- トレンドが出やすい局面(一方向に伸びた期間)
- レンジが長い局面(高値安値が収束した期間)
- ショック相場(急変・ボラ拡大・ヒゲ多発の期間)
この3つで成績がどう変わるかを見るだけでも、「このEAはレンジ専用だな」「ショック相場に弱いな」といった使いどころが見えてきます。万能を求めるより、弱点を知って運用ルールを決める方が現実的です。
レジーム変化は避けられないからこそ、次の理由④のリスク設計(DDの質)が重要になります。地合いが外れた時に“どう負けるか”まで設計できていないEAは、長期で見たときに勝ち残れません。
次は、理由④ リスク設計が甘い(DDの質を見ていない)に進みます。
EAで勝てない理由④ リスク設計が甘い(DDの質を見ていない)
相場の地合いは変わります。だからこそ、EAに必要なのは「勝つ力」だけではなく、負け方の設計です。
EAが長期で勝てない最大の原因のひとつは、DD(ドローダウン)を“数値”としてしか見ていないこと。最大DDが10%だったとしても、その10%に至る過程や、回復の仕方によって危険度はまったく変わります。
ここでは、EA検証で特に重要な「DDの質」という視点で、勝てない原因を切り分けます。
PFが良くても“最大DD”が浅いとは限らない
PF(プロフィットファクター)が高いEAは、ぱっと見で優秀に見えます。しかしPFは、「損益の合計比」にすぎません。
たとえば、次のようなEAはPFが良く見えやすい一方で、危険なことがあります。
- 普段は小さく勝ち続けるが、たまに大きく負ける
- 利確が細かく、損切りが遠い(損失が膨らみやすい)
- レンジでは勝つが、トレンドで一気に削られる
つまり、PFだけを見て採用すると、「勝てない」というより、ある日まとめて持っていかれるタイプを引きやすいです。
勝率が高いEAほど「たまに大負け」の可能性がある
勝率は分かりやすい指標ですが、ここにも罠があります。勝率が高いEAほど、次のような構造になっていることが多いからです。
- 小さく勝つ回数を積み上げる(勝率が上がる)
- 相場が逆行した時に損切りが遅れ、大きく負ける
このタイプは「普段は安心」に見えます。しかし、レジーム変化(トレンド化)や急変動の局面で、急にDDが深くなり、回復まで長期化しやすいのが特徴です。
だから検証では、勝率そのものよりも、
- 最大損失(1回の負けの大きさ)
- 最大連敗と、その期間
- 損失が連続した時の崩れ方(一直線に落ちるかどうか)
こうした「負け方」を必ず確認します。
潰し方:DDの深さ+回復期間+損失の連続性を見る
DDの質を確認する際は、最低限この3点をセットで見ます。
- DDの深さ:最大DDはもちろん、平均的な落ち込みも見る
- 回復期間:DDから元の残高へ戻るまで何ヶ月(何トレード)か
- 損失の連続性:損失が固まって出るか/じわじわ削られるか
同じ最大DDでも、
- 短期間でドンと落ちて、すぐ回復する
- 長期間じわじわ落ち続け、回復が遅い
この2つは危険度がまったく違います。後者は「気付いたら勝てなくなっている」になりやすく、精神的にも運用が続きません。
また、DDの評価は「運用ロット」と強く結びつきます。ロットが上がればDDも拡大します。次の理由⑥(運用ミス)にも直結するので、ここで一度、資金に対して許容できるDDを自分の基準として決めておくのが重要です。
次は、DDをさらに悪化させる原因でもある約定環境(ブローカー・口座タイプ・時間帯)の話です。理由⑤ 約定環境で期待値が変わるに進みます。
EAで勝てない理由⑤ 約定環境(ブローカー・口座タイプ・時間帯)で期待値が変わる
バックテストでは勝っているのに、実運用になると勝てない――このギャップを生む代表格が約定環境の違いです。
EAは同じロジックでも、
- ブローカー(サーバー・流動性・約定方式)
- 口座タイプ(STP/ECN/RAW、手数料あり/なし)
- 時間帯(アジア/欧州/米国、アジア市場前)
これが変わるだけで、スプレッド・滑り・約定拒否などの“取引コスト”が変化し、期待値が簡単にプラス→マイナスへひっくり返ります。
スプレッド拡大・約定拒否・滑りで“机上の勝ち”が消える
約定環境の差が効くポイントは、大きく3つです。
- スプレッド:平常時は狭くても、急変時や薄い時間帯で拡大する
- スリッページ(滑り):約定が意図した価格からズレる
- 約定拒否・リクオート:特に相場急変時に起きやすい(体感では“刺さらない/通らない”)
特に、利確幅が小さいEA(スキャルピング、M1中心など)は、数pipsの差で勝ち負けが逆転します。バックテストが良くても、現実のコストを乗せた瞬間に“勝てないEA”に変わることは珍しくありません。
逆に言えば、約定環境に強いEA(利確幅が大きい・取引頻度が適度・コスト依存が低い)は、ブローカー差の影響が相対的に小さく、長期運用しやすい傾向があります。
ゴールド(XAUUSD)・仮想通貨・指数は特に差が出やすい
通貨ペアの中でも、特に約定環境の差が成績に直撃しやすいのは次のジャンルです。
- XAUUSD(ゴールド):ボラが大きく、スプレッド拡大や滑りが起きやすい
- 仮想通貨:時間帯で流動性が変わりやすく、拡大幅も大きい
- 指数・CFD:取引時間・スプレッドルールがブローカーで異なりやすい
潰し方:複数ブローカー/複数口座で条件を揃えて比較する
約定環境の落とし穴を潰す方法はシンプルです。検証の時点で、
- 複数ブローカーで同条件テストをする
- 口座タイプ別(手数料あり/なし、RAW/STDなど)で差を見る
- 時間帯別(アジア・欧州・米国・アジア市場前)に成績の偏りを見る
これをやるだけで、「このEAはコスト依存が高い」「この口座では期待値が残る」など、実運用に近い判断ができます。
ここまでの①〜⑤は、主に「検証の穴」と「環境差」の話でした。次の理由⑥では、さらに現場で多い運用ミス(設定・ロット・停止条件)を扱います。実は、EAが勝てない原因としては“ここが最頻出”になりやすいです。
次は、理由⑥ 運用ミスが想定外の損失を作るに進みます。
EAで勝てない理由⑥ 運用ミス(設定・ロット・停止条件)が想定外の損失を作る
ここまでの①〜⑤で「検証の穴」「環境差」を潰しても、実運用で勝てない人がいます。その最大要因が、運用ミスです。
EAは一度動かすと、淡々とルール通りに売買します。だからこそ、人間側がやるべきことは「毎回判断する」ではなく、事故が起きない条件を先に整えることです。逆に言うと、運用の前提(設定・ロット・停止ルール)が曖昧なままだと、EAが正しく動いていても結果は崩れます。
ロット設定が破綻の起点(資金に対して過大)
EA運用で一番多い事故は、ロットが大きすぎることです。バックテストで「このくらいなら平気」と思っていても、実運用では以下の要因でDDが増えやすくなります。
- スプレッド拡大や滑りで、想定より不利に約定する
- 相場の地合いが外れて、DDが長期化する
- 連敗が続いた時に、心理的に耐えられない
ロットを上げれば利益も増えますが、DD(損失)も同じ比率で増えます。つまり「勝てないEA」になる前に、資金が先に耐えられなくなることが多いわけです。
運用ロットは、EAの性能より先に、自分が許容できる最大DDから逆算するのが安全です。最大DDが分かっているEAほど、ロット設計がしやすくなります(※DDの見方は理由④とセットで考えるのが重要)。
VPS・回線・MT4設定で“動いてない”や“変な約定”が起こる
「勝てない」というより、そもそも思った通りに動いていないケースもあります。特に多いのが次のパターンです。
- 自動売買が許可されていない(ツールバー/オプション設定)
- DLL許可がオフで、EAの機能が止まっている
- WebRequest未許可などで外部連携が動いていない
- VPSの再起動後にMT4が起動していない/ログインが切れている
- 回線不安定で接続が頻繁に落ち、約定が悪化する
こうした運用トラブルは、成績以前に「検証の再現性」を壊します。バックテストやデモで良かったのに実運用が崩れるとき、実は環境の違い+設定ミスが重なっていることが少なくありません。
潰し方:運用前に「停止条件」と「異常時のルール」を決めておく
運用ミスを減らすには、次の2種類のルールを事前に決めておくのが効果的です。
- 停止条件(守るためのルール):DDが◯%に達したら停止、連敗が◯回続いたら停止、など
- 異常時ルール(事故対応のルール):MT4が落ちたらどうする/VPS再起動時の確認手順/指標前後の扱い、など
ポイントは「勝てるまで粘る」ではなく、壊れた時に被害を限定する設計にすることです。EAは不調期が必ずあるので、停止条件がない運用は、いずれ“取り返しのつかない負け”に繋がりやすくなります。
次の理由⑦では、そもそも「検証指標の見方」がズレていて、良いEAを落としてしまったり、危ないEAを採用してしまう問題を扱います。ここまでの①〜⑥をやっても勝てない場合、最後は評価軸の問題であることが多いです。
次は、理由⑦ そもそも“検証指標”の見方がズレているに進みます。
EAで勝てない理由⑦ そもそも“検証指標”の見方がズレている
EAで勝てない人ほど、「良さそうに見える数字」に引っ張られがちです。勝率が高い、PFが高い、右肩上がり――たしかに魅力的ですが、それだけで採用すると、危ないEAを選びやすいのも事実です。
ここでは、検証でありがちな“指標の見誤り”を整理して、再現性のある評価軸に戻します。
PF・勝率だけで選ぶと事故る(見るべきセットがある)
PFと勝率は「結果の見え方」を良くする代表指標です。しかし、これらは単体では危険です。
- PF:損益の合計比なので、たまに大負けが混ざっても高く見えることがある
- 勝率:小さく勝って大きく負けるタイプほど上がりやすい
だからTOKYO-EAの検証では、最低でも次のようにセットで見るのがおすすめです。
- PF(利益効率)
- 最大DD(最悪ケースの耐久)
- 取引回数(統計の信頼度)
- 平均利益/平均損失(勝ち負けのバランス)
- 最大連敗(メンタルと資金の耐性)
- DDからの回復期間(運用継続の現実性)
この中のどれかが極端に悪い場合、PFや勝率が良くても「勝てないEA」になる確率が上がります。
取引回数が少ないEAは統計的にブレが大きい
検証で見落としやすいのが、取引回数です。取引回数が少ないと、成績が良くてもたまたまの可能性が高くなります。
極端な例ですが、数回のトレードでPF3.0が出ても、それは統計的に意味が薄いです。一方で、取引回数が十分にあり、複数の期間で似た成績が出ていれば、再現性が上がります。
目安としては、
- 「そのEAの戦略に対して、取引回数が少なすぎないか?」
- 「勝ちが特定の月や特定の局面に偏っていないか?」
この2点を必ず確認します。
潰し方:最低限見るべき指標テンプレを固定する
指標の見誤りを防ぐ一番の方法は、評価軸を固定して毎回同じテンプレで見ることです。ここでは“最低限”として、次のテンプレをおすすめします。
- PF
- 最大DD(%でも金額でもOK。比較しやすい方で統一)
- 勝率
- 取引回数
- 平均利益/平均損失(もしくはRRの感覚が分かる指標)
- 最大連敗
このテンプレを全EAで揃えるだけでも、「数字は良いのに勝てない」系の採用ミスが一気に減ります。
・無料EAランキング|MQL5の人気TOP10を徹底検証(毎月更新)
次の章では、ここまでの①〜⑦を“実務”に落とすために、検証で潰すべき落とし穴チェックリスト(保存版)をまとめます。ここだけ読んでも、検証の精度が上がるように整理します。
検証で潰すべき落とし穴チェックリスト(保存版)
ここまでで紹介した「EAで勝てない7つの理由」は、言い換えると検証で潰すべき落とし穴です。
この章は、記事の中でも特に保存価値が高いパートにします。EAを入れ替えるたびに、ここだけ見返せば同じ失敗を防げる――そんなチェックリストを、検証前/最適化/運用前/ブローカー差の4段階に分けてまとめます。
バックテスト前チェック(データ・スプレッド・手数料・約定)
- テスト期間に対して、必要な過去データが揃っている(不足・欠損がない)
- 取引回数が不自然に少ない/多いなど、違和感がない
- スプレッドが現実的な条件になっている(狭すぎない)
- 手数料(RAWなど)がある場合、往復コストを加味している
- スリッページ(滑り)や急変時の不利約定を軽視していない
ここが崩れていると、バックテスト結果は“盛れます”。まずは結果を見る前に前提を整えることが最優先です。
最適化チェック(期間分割・パラメータ自由度)
- インサンプル(調整期間)とアウトサンプル(検証期間)に期間を分割した
- アウトサンプルで成績が崩れていない(過学習を疑うテストを通した)
- 最適化したパラメータが、近い値でも大きく崩れない(近傍安定性がある)
- パラメータ数が多いEAほど、過剰なフィルターになっていないか確認した
- 「特定の年だけ強い」など、勝ちが偏っていない
“最強設定”は作れても、未来でも通用するとは限りません。だから、最適化は候補抽出まで。最後は「別条件で耐えるか」で落とします。
運用チェック(ロット・停止ルール・MT4設定・VPS)
- ロットは、最大DDから逆算して許容範囲に収めた
- DDが◯%に達したら停止、連敗が◯回で停止など、停止条件を決めた
- MT4/MT5の自動売買設定(ボタン・オプション)が正しい
- DLL許可、WebRequestなど、EAが必要とする設定がオフになっていない
- VPS運用なら、再起動後にMT4が起動・ログインされるなど、復旧手順を決めた
- 接続不安定時の対応(手動停止、ログ確認など)を決めた
運用は「勝つ工夫」より「事故らない仕組み」が重要です。運用ミスは、EAの性能差よりも簡単に成績を壊します。
ブローカー差チェック(時間帯・口座タイプ・実測コスト)
- 可能なら複数ブローカーで同条件テストをして、成績差を確認した
- 口座タイプ(STD/RAWなど)で、手数料込みの実質コストを比較した
- 時間帯(アジア・欧州・米国・アジア市場前)で成績が偏っていない
- 重要指標時のスプレッド拡大・滑りが起きた時に、どれだけ崩れるか把握した
特にスキャルピングやXAUUSD系は、ブローカー差が“期待値そのもの”を変えます。TOKYO-EAの実測スプレッド記事と組み合わせると、判断の精度が一段上がります。
よくある質問(FAQ)
Q. EAで勝てないのは、EAの性能が低いからですか?
A. もちろん“負ける設計のEA”もありますが、実際は検証の前提(データ・コスト)や過学習、約定環境の差、運用ミスが原因で「勝てるはずの期待値」を落としているケースが多いです。まずは本記事のチェックリストで、前提と運用条件を潰すのが近道です。
Q. バックテストでは勝っているのに、リアル運用で負けるのはなぜ?
A. 代表的な原因は、スプレッド拡大・滑り・手数料など“現実のコスト”です。特に利確幅が小さいEAほど影響が大きく、バックテストの成績とズレやすくなります。ブローカーや口座タイプでも差が出るので、可能なら複数条件で比較すると精度が上がります。
Q. PF(プロフィットファクター)が高ければ優秀なEAですか?
A. PFは重要ですが、単体では判断できません。PFが高くても最大DDが深い、回復に時間がかかる、取引回数が少ないなどの場合、長期運用で崩れることがあります。PFは必ずDDや取引回数とセットで見てください。
Q. 勝率が高いEAは安全ですか?
A. 一概には安全ではありません。勝率が高いEAほど、小さく勝って、たまに大きく負ける構造になっていることがあります。勝率だけでなく、最大損失・最大連敗・DDの回復期間も確認するのが安全です。
Q. 最適化(パラメータ調整)はやるべき?やらないべき?
A. 最適化自体は有効ですが、最大の落とし穴は過学習(過去に合わせすぎ)です。最適化は「候補を絞る」目的に留め、必ずアウトサンプル(別期間)で成績が耐えるかを確認してから採用するのがおすすめです。
Q. EAの検証期間はどれくらい必要ですか?
A. 「◯年あればOK」とは言い切れませんが、少なくとも相場タイプが変わる局面(トレンド期・レンジ期・急変動期)を含む期間で確認したいです。さらに重要なのは年数より、取引回数が十分あるかと、勝ち負けが特定の局面に偏っていないかです。
Q. 同じEAでもブローカーで成績が変わるのは普通ですか?
A. 普通に起こります。スプレッド、約定方式、滑り、手数料、時間帯ごとの拡大などが違うためです。特にXAUUSD(ゴールド)やスキャルピング系は差が出やすいので、口座タイプも含めて比較するのがおすすめです。
Q. MT4でEAが動かない/エントリーしない時は、まず何を確認すべき?
A. まずは自動売買ボタンがON、EAのプロパティで自動売買を許可、必要ならDLL許可など基本設定を確認します。VPS運用の場合は、再起動後にMT4が起動しているかも要チェックです。
Q. EA運用で「停止条件」は必要ですか?
A. 必要です。相場の地合い変化は避けられないため、停止条件がないと“不調期”に損失が膨らみやすくなります。例としては、DDが◯%で停止、連敗◯回で停止など、事前にルール化しておくと事故を減らせます。
Q. 結局、勝てるEAを選ぶ一番の近道は?
A. 「勝てるものを探す」より、負ける原因を先に潰すのが近道です。本記事の7項目(前提・過学習・地合い・DD・約定・運用・指標)をテンプレ化して、毎回同じ手順で検証すると、採用ミスが減って安定度が上がります。
まとめ|「勝てない」を減らす最短ルートは“負けパターンを先に潰す”こと
EAで勝てない原因は、ロジックの良し悪しだけではありません。多くの場合、検証の前提ミスや過学習、相場の地合い変化、DDの見誤り、約定環境の差、そして運用ミスが重なって、バックテストの成績と実運用の結果にギャップが生まれます。
この記事で紹介した「勝てない7つの理由」は、言い換えると“採用前に潰せる落とし穴”です。EAを変えるたびにチェックリストを通し、同じ失敗を繰り返さないだけで、運用の安定度は確実に上がります。
- ① バックテストの前提(データ・コスト)がズレていないか
- ② 最適化が過学習になっていないか
- ③ レジーム変化(地合い変化)で崩れないか
- ④ DDの“深さ・回復・連続性”を見ているか
- ⑤ 約定環境で期待値が消えないか
- ⑥ ロット・設定・停止条件など運用設計ができているか
- ⑦ 指標の見方が偏っていないか(PF/勝率だけで判断していないか)
あわせて読みたい(次に読むべき内部リンク)
この記事の内容を、さらに具体的な手順に落としたい方は、以下の記事も合わせて確認してください。検証→運用までの抜け漏れが減り、再現性が上がります。
- EAのリスク完全ガイド(DD・破綻パターン・リスクの考え方を体系化)
- 【初心者向け】MT4にEAをインストールする方法(導入ミスを防ぐ)
- MT4 EAが起動しない・エントリーしない理由と設定確認ポイント(運用トラブルの最短解決)
- 海外FXスプレッド比較(実測データ)(約定環境の差を“数字”で把握する)
- ExportDailyRange / Range Stats Viewer(過去データを扱い、検証の精度を上げる)
EAは「勝てるものを探す」より先に、負ける原因を潰すことで勝率が上がります。焦って乗り換える前に、この7項目をひとつずつ確認し、納得できる形で検証→運用へ進めていきましょう。
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