MT4の旧ビルドはすでにサポートが終了し、国内でもMT4の新規口座受付を締め切るブローカーが出始めました。「いずれMT5」の流れは確定的です。一方で、EAで運用している人にとって移行は「アプリを入れ替えて終わり」ではありません。EA資産はMT4とMT5で互換性がないからです。
この記事は、実際にEAをMT4からMT5へ移した開発者として、(1)何が違うのか (2)EA資産をどう移すのか (3)いつやるべきか、を実体験ベースで書きます。なお本記事はEA運用者の視点に絞った比較です。チャート操作や銘柄数など一般的な違いを網羅したい方には向きません。
MT4とMT5、EA運用者にとっての本当の違い
| 項目 | MT4 | MT5 | EA運用者への影響 |
|---|---|---|---|
| EAの言語 | MQL4 | MQL5(互換性なし) | 手持ちのEAはそのまま動かない |
| バックテスト | 擬似ティック中心 | リアルティックモデル対応・高速 | 検証の精度と速度が段違い |
| 板情報・銘柄 | FX中心 | 株式・先物も統合 | FX専業なら差は小さい |
| 今後の開発 | 事実上凍結 | 継続 | 新機能・修正はMT5のみ |
開発者として実感が大きいのはバックテスト環境です。長期間のヒストリカルデータに対するリアルティック検証が現実的な時間で回るかどうかは、EAの信頼性をどこまで詰められるかに直結します。
EA資産を移す3つの選択肢——「変換ツール」を勧めない理由
選択肢①:変換ツール・書き換えで移植する
MQL4→MQL5の変換ツールや書き換え代行は存在します。ただし、TOKYO-EAはこの方法を採用しませんでした。理由は移植の途中で実際に起きたことにあります。
移植したEAが元のEAと同じ挙動をするかを確認するため、「同一期間・同一条件のバックテストを複数本流し、取引が1件単位で一致するか」を検証します(ソフトウェア開発でいう非回帰テストです)。このとき、計算上は小数点以下の丸め誤差レベルでしかない差が、数千件の取引を経ると全く別のバックテスト結果に育つことを実測しました。エントリー判定の境界線上にある取引が1件ズレると、そこから先のポジション状況がすべて変わっていくためです。最終的に、移植の合格条件を「条件を変えた5本のバックテストが元と完全一致すること」と定め、これを満たす実装だけを採用しました。
つまり「変換できた=同じEA」ではありません。変換ツールでコンパイルが通っても、挙動の同一性はまた別の問題です。移植したEAを使う場合は、最低でも元EAとの同一期間バックテスト比較を自分で行うことを勧めます。この確認は特別な道具が要らず、MT4とMT5のテスターがあれば誰でも再現できます。
選択肢②:MT5用に作り直す(TOKYO-EAの選択)
TOKYO-EAは後継EA(BBF_Cycle)を、MT4版の変換ではなくMT5用に作り直す形で開発しました。
ここは正直に書いておきます。作り直した一番の理由は「MT5に移るから」ではありません。MT4版のロジックそのものに満足していなかったからです。設計を根本から見直したかったところに、MT5への移行という区切りが来た——順序としてはそちらが実態です。MT5移行は、作り直す踏ん切りをつける機会になりました。
その上で、MT5を選んだことによる副次的な利点は確かにありました。MQL5は書き方こそ変わりますが、MQL4より扱える処理の幅が広く、頭の中にある売買ロジックを形にしやすいという手応えがあります。
これは「自分でEAを作る人」向けの話に見えますが、利用者側にも意味があります。使っているEAのMT5版が「変換しただけのもの」なのか「作り直して検証し直したもの」なのかは、提供者に確認する価値があるということです。
選択肢③:移行しない/コピートレードでつなぐ
MT4版EAを使い続けながら、MT5口座へ売買を渡す方法もあります。ここで技術的な前提をひとつ正確に。MQL5公式のシグナルサービスは同一プラットフォーム内のコピーが基本で、MT4→MT5のようにプラットフォームを跨ぐ場合は、別途コピートレードツール(コピアー)を使うことになります。ツール自体はコピートレードツール解説で扱っていますが、コピアーを挟む分だけ設定項目と確認事項(約定タイミング・ロット換算)が増える点は把握しておいてください。「使いたいEAがMT4版しかない」場合の現実解ではあるものの、手放しで簡単な方法ではありません。
移行手順チェックリスト
実際に移行する場合の手順です。
- ブローカーのMT5口座を用意する(同一ブローカーでもMT4とMT5は別口座。取引条件=スプレッド・銘柄表記も別物として確認する)
- EAのMT5版の有無と「検証状況」を確認する(変換しただけか、作り直して検証し直したか。フォワード実績はMT5版のものか)
- デモ口座で先に動かす(本番資金の前に、注文が意図通り入るかを確認。TOKYO-EAでも新しいEAは必ずデモから始めます)
- バックテストを自分の口座条件で流す(MT5はテスターが高速なので、これがやりやすくなったのが移行の利点そのもの)
- MT4環境は当面残す(並行稼働。移行は「切り替え」ではなく「重ねてから畳む」が安全)
いつ移行すべきか——期限を決めるのはブローカー
ここは誤解されやすいところです。MT4がいつ使えなくなるかは、開発元であるMetaQuotes社の動きだけで決まるわけではありません。実際にあなたの手を止めるのは、使っているブローカーの判断です。新規口座の受付をやめる、既存口座のサポートを縮小する、MT5へ一本化する——こうしたブローカー側の決定は個別に、しかも比較的短い予告で起こります。
だからこそ、能動的な基準をひとつ提案します。新しく始めるもの(新規資金・新規EA・新規口座)はMT5側で始め、既に回っているMT4運用は触らずに並行稼働させる。 これなら移行の失敗が既存運用に波及せず、MT5環境の習熟も進みます。既存運用をMT5へ寄せるのは、MT5側で同等の検証(デモ→実測)が済んでからで遅くありません。
プラットフォーム移行とEAの信頼性検証を同時に急ぐと、問題が起きた時に原因の切り分けができなくなります。移行そのものより、移行後のEAが移行前と同じ信頼性で動いていることの確認に時間を使うべきだ、というのが実体験からの結論です。
TOKYO-EAがMT5版のEAをどう検証したかは、BBF_Cycle公開検証レポート に検証条件から実測値まで公開しています。「移行後にどこまで確認すれば足りるのか」の具体例として参考になるはずです。
よくある疑問への回答(考察)
「丸め誤差で結果が変わったというが、具体的な数字は?」
検証の内部データそのものは製品ロジックに近いため全公開はしていませんが、確認の方法は上に書いた通り誰でも再現できます:同一のつもりの2つのEAで、同一期間・同一条件のバックテストを流し、取引履歴を1件単位で突き合わせる。1件でもズレたら「同じEA」ではない——これだけです。数字を信じてもらうのではなく、読者が同じ検証を自分のEAでできる手順を残すのが本記事の趣旨です。
「結局、いつまでに移行しないとまずいのか?」
「〇年〇月まで」という締切は誰にも言えません。MetaQuotesが公式な終了日を出していないうえ、前述のとおり実質的な期限は各ブローカーの判断で決まるからです。言えるのは、自分のブローカーが決めてから動くと選択肢が狭い側に追い込まれる、ということ。だから「新規はMT5・既存は並行」を勧めています。締切対応ではなく、リスクを増やさない順序の問題として移行を扱うのが実務的です。
開発者メモ
移行をやってみて一番想定と違ったのは、MQL5は言語の書き方そのものが変わるため、思っていたよりコードを書く量が必要だったことです。同じロジックを再現するだけでも、そのまま置き換えれば済む話にはなりませんでした。「移行=変換」というイメージを持っていると、ここで面食らうと思います。
ただ、書き終えてみるとMQL5の方ができることが多い。おそらくより複雑な処理も組めますし、頭の中にある売買ロジックを形にしやすいのは圧倒的にMT5だと感じています。
移行の時期については、急いでもいませんが、のんびりもしていません。ブローカーがサービスを終了してしまえばそれまでなので、準備は早いに越したことはないと考えています。
環境が変わることを恐れたり面倒に思ったりする気持ちはよく分かります。ただ、昨今のAIの発展を見ても分かるとおり、変化を受け入れて使いこなせるようになるという気概は、常に持っておいた方がいいと思っています。そういう探究心や向上心は、結果的に良い形で自分の糧になるはずです。
FAQ
Q. MT4のインジケーターやEAはMT5で使えますか?
A. 使えません。MQL4とMQL5に互換性がないため、MT5版として提供されたものを入手するか、移植(+同一性検証)が必要です。
Q. MT4はいつまで使えますか?
A. 公式な終了日は発表されていません。ただし実質的な期限は、あなたが使っているブローカーがMT4の提供をどうするかで決まります。「期限が出てから慌てる」より並行稼働で備えるのが安全です。
Q. MT5のEAはどこで手に入りますか?
A. 入手経路は4つあります。MT5の無料EAはどこで手に入る?入手先4つと選び方 にまとめています。
※ 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の売買や投資判断を推奨するものではありません。









